ミルガウスに想いを馳せる

  • 投稿日:2023年06月29日

こんにちは、中野ブロードウェイの時計専門店「れんず」です。

皆さん、ロレックス、好きですよね。

多様なコレクションを展開し、様々な需要に応えるロレックス。
今回は、その中でも私が気に入っているシリーズ「ミルガウス」についてお話します。

ミルガウスについて


画像:ロレックス公式インスタグラム 

1956年に生まれた「ミルガウス」。

フランス語で1000という意味の「ミル」に、磁束密度を表す単位「ガウス」。
この名前が示すのは、「1000ガウスに耐え得る耐磁性能を持っています」という、ミルガウスの一番の特徴です。

磁束密度、難しいですよね。わかります。
磁束密度は磁界の強さを表す度数で、磁界とは磁気が働く空間のこと。
磁気は同じ極同士で反発しあったり、N極とS極で引きあったりするときの力のことで、これによって磁力が生まれ、磁石が冷蔵庫にくっついたり、機械式時計が磁気帯びしてしまったりするんですね。
ここまでくるとちょっと理解しやすくなってきました。

要は、ミルガウスは磁力が沢山行き来する空間にいても大丈夫ですよ!ということですね。

1000ガウスってどれくらいすごいの?

知らない単位で話されてもピンときませんよね。私もです。

一般的にJIS(日本産業規格)では、非耐磁時計/1種耐磁時計/2種耐磁時計と、どのくらいの耐磁性能がある時計なのかレベル分けをしています。
*ちなみに、JISはISO(国際標準化機構)が作ったISO規格を翻訳したものになるので、日本と名はついていますが世界共通基準だと考えて大丈夫です。

出典 JISとISO:https://www.jab.or.jp/contact/faq/q11.html 

非耐磁時計は1600A/m、耐磁性能をアピールしていない時計でもこのくらいは満たすそうです。
1種耐磁時計は4800A/m、磁気を発するものに5cmくらいなら近付けても問題ない耐性。
2種耐磁時計は16000A/m以上、1cmくらいまでならほぼ耐えられるくらいの耐性とのことです。

ミルガウスさんは1000ガウス=約80,000A/mとのことなので、余裕の表情ですね。

*また新しい単位を出してすみません。
A/m(アンペア毎メートル)も磁場の強さを表す単位で、同じ現象について違う視点で話しているだけ。

同じようなものなので、数字だけで比べて「ほ~」と思ってもらえれば大丈夫です。

出典 耐磁性能の規格について:https://www.jcwa.or.jp/time/knowledge/magnetic.html

しかし。

ピップのマグネループのような磁気治療器は、現在最強が200T(ミリテスラ)=2000ガウス
更に、世界最強と名高いネオジム磁石は直径1.5mm×8mmの小さな個体でも2300ガウスの磁束密度を持つそうです。良いスピーカーなどに使われていることもあるみたいですね。
出典 ネオジム磁石:https://www.e-sangyo.jp/neo/r/neomaru.html 

つまり、ミルガウスくんでは耐えられないレベルのものも結構存在するのです……。

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ガウス=0.0001テスラなので、1956年に生まれたミルガウスではちょっと現代の磁気に追いつけなくなってきているようです。技術の進歩を感じると共に、時代の流れも感じちゃいますね。
もちろん、耐磁性能を超えるものが同じ部屋にあるからといってたちまち壊れてしまうわけではないことを、皆様はご存じだと思います。じゃなきゃ非耐磁時計が売れなくなっちゃいますからね!

ちなみに

 
△左は500,000A/mもの耐磁性能を備えるIW3508 シンプルかつスマートです
△右は2023年新作のインヂュニア。市松模様が可愛いです

IWCのインヂュニアも同じく耐磁性能をアピールするコレクションです。
初登場は1955年と、ミルガウスとはほぼ同期。
初期モデルはミルガウスと同じ約80,000A/mまでの性能だったものの、1989年に500,000A/mまでの耐磁性を持つモデルが発表され、ミルガウスくんはまたしても置いていかれてしまいました。
なお、最近のインヂュニアは耐磁性よりも自然やスポーツに目を向けたモデルを生産しています。ライバルだったのは過去の話って感じですね。
画像・出典 IWC:https://www.iwc.com/jp/ja/introduction-iwc-collections/ingenieur.html 

更に

オメガには、ミルガウスの性能を遥かに超えた1,200,000A/(15,000ガウス)というとんでもない耐磁性能を持った時計があります。しかも沢山。


画像:https://www.omegawatches.jp/watch-omega-speedmaster-moonwatch-professional-co-axial-master-chronometer-chronograph-42-mm-31030425001002 

マスタークロノメーター認定」を受けたオメガの時計は、全てこの耐磁性能を持っています。
性能面だけで見れば、ミルガウス的にはちょっと厳しい相手だと感じられますね。ぬう。

でもちょっと待ってください。

耐磁性能がオメガやIWCに負けているからといって、ミルガウスを選ばない理由にはならないと思いませんか?
稲妻型の秒針、グリーンの風防、重厚なケース。この独特の雰囲気を持つミルガウスそのものに魅せられている人は、私だけではないはずです。
全ての人が時計を性能だけで選ぶのであれば、もっと時計って数が少ないと思います。ね!

見た目の話

*特徴的な秒針

なんといってもまずは稲妻型の秒針に目が行きます。


画像:ロレックス公式インスタグラム 

ちなみにミルガウスとは関係のない話ですが、稲妻の由来ってご存じですか?
昔から雷があると稲がめちゃ実るよね、と人々が気付き、じゃあ稲と雷は夫婦だねと言われていたそうです。
稲の方が実を持つのだから稲が嫁で雷は稲夫じゃ?と思いましたが、「つま」という言葉、昔は「配偶者」という意味だったので、女でも男でも使える言葉だったらしいです。
よって稲妻。雷がメスというわけではありませんでした。すごい!
出典:https://kobun.weblio.jp/content/人・妻 

そんなオレンジ(型によってはシルバー)の稲妻型の秒針。
これが好きでミルガウスをお探しの方もいらっしゃるかと思います。良いですよね……。

*グリーンの風防

私はなんとなくミルガウスといえばグリーンの風防を想像するのですが、皆様はいかがでしょうか。
Ref.116400GVRef.116400GVZにのみ備わっているグリーン風防。
あまり時計に詳しくない人が見ても「なんか不思議な時計を着けているな?」と関心を抱くこと間違いなしです。
もちろん、クリアガラスを採用しているRef.116400以前のモデルも素敵です!

*ノンデイト

デイト表記をあえて搭載しないことで、サイクロップレンズと風防の僅かな隙間すらなくし、耐磁性をアップさせる工夫を施しています。
「デイトはない方が好き」という方も一定数いらっしゃいますし、ミルガウスは基本的にバーインデックスを採用しているためシンプル!スマート!スタイリッシュ!そういうことです。

*重厚な着け心地

こちらはどちらかといえば中身の話ですが、ミルガウスはとある理由からずっしりとした重みがあります。

画像:ロレックス公式インスタグラム 

その理由がこちら。
ミルガウスは裏蓋を開けると更に蓋が出てきます。
インナーケースによる二重構造でムーブメントを守っているのです。
掛布団などでも聞く話ですが、「重たい方が安心感がある」という方にはぴったりですね!
ちなみにおよそ155gほどなので、iPhone8やiPhoneSEくらいの重さです。

ミルガウスの歴史

Ref.6541が最初のミルガウス。丸いインデックスと稲妻型の秒針を持ちます。
この頃の秒針はオレンジではなくスチールの色そのまま。スマートです。


画像:Ref.6541 ロレックス公式インスタグラム より

Ref.1019はセカンドモデル。バーインデックスと真っ直ぐの秒針になりました。
ちょっとよさげな画像を見つけられませんでしたが、針の先に赤い三角が付いていて、先生が持っていそうな棒みたいだと思いました。

ここで一旦生産を終了しています。
現代と比べてあまり電子機器もなく、特定の職業の人々から以外はあまり需要が感じられなかったようです。

 
△Ref.116400(白・黒)
そんなミルガウス、Ref.116400で復活を遂げます。2007年なので結構最近ですね。
バーインデックスと稲妻型の秒針で、顔馴染みという気すらしてきました。

 
△Ref.116400GV(黒)、Ref.116400GVZ(青)
Ref.116400GVはミルガウス誕生から50年を祝して生まれたモデルで、先ほどご紹介したグリーンの風防が印象的です。2014年には青いダイヤルを持つモデルも誕生しました。
GVはGlace=ガラス、Verte=緑から、Zは文字盤に含まれるジルコニウムからきています。

これが、ミルガウスが歩んできた歴史です。

そして2023年4月、ミルガウスはロレックス公式からもページを消され、生産終了となってしまいました。
耐磁性能が売りなのにそれをゆうに超える時計が世の中に沢山ありますから、まあ仕方ないよねという声もありました。

しかし、「ミルガウスはもっとすごい耐磁性能を備えて帰ってくる、きてほしい」という声も見られました。私も同意見です!
あの稲妻型の秒針やグリーンのガラスと共に、電子機器溢れる現代社会にぴったりの耐磁性能を備えて帰ってきてほしいですね!

一度は生産終了した経験を持つミルガウス。また復活してくれると信じています!

おまけ

HODINKEEさんの記事に興味深い実験をしているものがありましたのでちょっと載せちゃいます。
→ https://www.hodinkee.jp/articles/a-rolex-milgauss-an-omega-15-000-gauss-and-a-4-000-gauss-neodymium-magnet

最強磁石と名高いネオジム磁石を使い、ミルガウスとオメガのアクアテラを比べてみる実験です。ぜひ。

弊社のブログも宣伝して締めたいと思います。

↓こちらは私が愛を込めて書いたノモスの記事↓ 今回のミルガウス回とは特に関係ないです。私が好きなだけ!

【NOMOS】人気急上昇中!?ノモスのモデル紹介!!

↓こちらは他の方が書いた磁気に関する記事↓

アナログウォッチの大敵!目に見えない磁気には気をつけて!

よろしくお願いします!

 

NY

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