今回のブログでは2022年に入り頻発する日本定価の改定、その理由に着目し推察してみました。
2021年から2022年に掛けて、多くのブランドで価格改定=値上げが続々と行われています。
私が記憶している限りですが、この時計界に従事を始めてからだと、定価が下がったのはほんの数回だと思います。
パテックフィリップの輸入元が、一新時計さんからパテックフィリップジャパンさんへ変わった時と、1ドルが約80円台後半から90円ほどと円高が続いた時位です。
では、なぜこんなにも価格が下がらず値上げが行われているのか推察してみました。
定価が高騰する理由は何なの?
本来の理由はブランドしか解りませんが、下記の様な理由が推察出来ます。
各メーカー側とすれば、パーツの原材料費や自社製ムーブメントの開発費、スタッフの人件費の高騰などが挙げられます。
また時計界グループ再編により、グループ間のブランドイメージ戦略などもあり高級化路線に進んだ事も要因の一つに感じます。
多くのブランドはETA社のムーブメントを比較的安価で仕入れ、それを使う事でムーブメントを作る事なく時計製造ができましたが、ETA社がスウォッチグループに買収されグループ外のブランドへの供給が縮小・停止された事で自社開発を余儀なくされた事で、開発費が高騰した事も要因の一つと言えるでしょう。
日本へ輸入する国内の代理店側とすれば、メーカーの改定はもちろんですが為替変動が一番の要因でしょうね。
高級化路線って??
1990年代以降、スウォッチグループ、リシュモングループ、LVMHグループの3つの大手グループが、さまざまなブランドを買収し傘下に収めてきたのはご存知の方も多いはず。
これらグループが目指したのが、時計の高級化ではないかと思っています。
ゼニスがLVMHに買収されたグループ傘下に加わった後には、日本国内で正規販売店数の縮小や見直しが行われ、その直後に大幅な価格改定が幾度も行われた事は記憶に新しいところです。
正規販売店の選別や価格改定の回数など、それはそれはかなりドラスティックだなと思いましたし、ちょうどクロノマスターTオープンなどが誕生していた頃ですね。
その後は、多くのブランドがその潮流に乗っていったのは言うまでもありません。
ただ多くの著名ブランドも、本来はもっと高く売りたいのにもかかわらず、資金的な余裕が無いため抑えめな価格帯で設定多売するしか無かったというのも事実だと思うので、傘下に加わり潤沢な資金を得て高級化が果たせたのはブランドしては良かったのかもしれませんね。
原材料費って
細かなコスト面までは正直なところ分かりませんが、例えば時計の素材に使われる事が多い18金を例に挙げてみましょう。
私が時計業界に従事し始めた25年近く前の時の18金(スクラップ)の買取価格は1グラム600円前後でした。
それが2022年8月22日現在では約6,200円程と約10倍にも高騰しています。
金だけでなくステンレスやチタン、またプラチナなども価格が急騰しているため、材料費がかなり高騰している事がお分かり頂けると思います。
開発費って?
スウォッチグループに買収されたETA社による、他ブランドへの供給停止問題をご存知の方も多いと思います。
自社開発を行わず汎用ムーブメント(半完成・完成)に頼るブランドとすれば、ETA社供給問題以降はムーブメント供給会社の価格も高騰しているのではないかと思います。
外部からの供給に頼らず、自社開発を行うブランドが増えてきていますが、精度や動作を司る時計の心臓部とも言えるムーブメント。
今の時代は、ただ図面を作りパーツを切削するだけならコンピュータで簡単にできるのでしょう。
しかし安定した精度を発揮し、実使用に於いてトラブルなく動作を行うためのテストなどには、膨大な時間とコストをかけなければならず、実際に製品化されるまでにはかなりのコストが必要になります。
人件費って?
スイス製時計とされる定義は
- スイス製のムーブメント
- スイス国内でケーシング
- スイス国内での最終検査
- 製造コストの60%をスイス国内で支払われている
生産コストを抑えるため、スイス国外へ開発・製造拠点を移すメーカーが増えましたが、スイス国内の法令が厳格化され上記を満たす時計のみスイス製と謳える定義としました。
上記の定義を満たしさえすればスイス製ですので、時計を組み立てる前のパーツやガラス、ストラップなどはコストの安い国外へ外注するブランドは今現時点でも多いことは事実だと思います。
新興国などに拠点や外注先があるのでしょうが、そういった国々の人件費も急騰していると思うので、これもコストが上がっている要因でしょう。
為替の影響って?
まず円高とか円安って分かり難くありませんか?
ドルと円でいえば、1ドル=80円は円高、1ドル=120円なら円安と言えます。
安い方が高?高い方が安??
なぜかというと、ハワイに行くのに100,000円を両替した場合
80円の時なら1,250ドルになり、120円の時なら833ドルにしかならず、80円の時の方がドルを多く手にする事が出来るので円の価値が高いとなり円高になります。
では、なぜそれが輸入コストに影響するのかですが
メーカーがとある時計の卸値を15,000ドルにしている場合、80円の時なら輸入価格は1,200,000円ですが、120円の時だと1,800,000円にもなってしまいます。
コロナ禍以前は1ドル=106〜109円くらいでしたが、2022年8月22日現在だと137円ですから、この2年で輸入価格が急速に上昇している事が容易に分かりますね。
最後に
おそらく本国のメーカーとしては、今後も価格をどんどん上げるのでしょう。
これまでにも海外定価は上がっていても、日本は据え置きという事も幾度もあります。
厳しい消費者の目もあるので、各輸入元の方々も出来る限り価格を上げない様な努力はされている事だと思います。
定価が変わっていない時などは、正規店への納入掛け率の改定(上げる)を交渉したりと、メーカーのみならず正規店の負担も増えていると思われます。
メーカーとしての高級化路線へ進むのも要因としてあるのでしょうが、上記の様な理由もあり価格改定が行われるのは致し方のない事なのでしょう。
今や各ブランドのホームページを見れば、容易に各国の定価も見れる時代で、世界的に価格を合わせる戦略を推しているので価格を合わせていくしかないんですよね。
前述の通り上がる事はあっても下がる事はそうは無いでしょう。
下げる理由はどうあれブランドの価値を下げるというイメージになりかねませんし、為替が100円になるとか余程の理由がない限り下がる事はほとんどないでしょう。
一番は下げるのは簡単ですけど、上げるのって大変ですからね。
輸入元さんも含め、みんな頑張って踏ん張っている、本当にお疲れ様です。
とは言え皆様なかなか理解し難いというお気持ちお察ししますし、私も共感しています。
直近の価格改定
豆知識:並行輸入ができた理由
メーカーが推す世界共通価格と先に述べましたが、ネットがまだ普及しておらず海外の価格なんか知る由もなかった時代。
海外定価で100万円に換算できる商品が、日本では定価200万円で売られていた事もありました。
現地に赴き100万円で仕入れて日本で定価より安い130万円で販売する、これが並行輸入が誕生した簡単な理由です。
消費者の皆様には大変好評を得ていた様ですが、輸入元にすれば安売りでブランドの価値を損なうと裁判沙汰(損なわないと勝訴)にもなっていましたし、メーカーや輸入元にすれば当時から今でも煙たい存在ですよね😅
メーカーからの各販売店への横流しに対する締め付けも厳しく、卸値の掛け率が上がり割引率が減った事で、今となっては定価より高いものやお安い感の少ないものが多くなってしまっているのですが・・・。
という訳でお休みを頂いていますが、おじさんは早くに目が覚めてしまったので、皆さんが気になっている価格改定の理由を推察してみたブログを書いてみました。
あくまでの個人的な推察ですので、本来の理由とは異なる点もあるでしょうし、見解が異なる事もあると思いますので、その点は悪しからずご了承ください🙇🙇🙇🙇
それではちょっとお散歩に行ってまいります✋✋✋
倉本でした